手越祐也「愛と絆を感じたツアーになりました」ライブツアー『絆 -KIZUNA-』ファイナル公演のレポート到着

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『「手越祐也 LIVE TOUR 2024 絆 -KIZUNA-」FINAL』2024.2.29(THU)@東京・Zepp Haneda

手越祐也が全国5都市を回ったライブツアー『手越祐也 LIVE TOUR 2024 絆 -KIZUNA-』が2月29日(木)の東京・Zepp Hanedaでの2Days公演をもって全日程を完走した。本ツアーは2月1日のKT Zepp Yokohamaでの2Days公演を皮切りに、大阪、愛知、宮城を回り、最終公演の東京でラストを迎えた。本稿ではZepp Hanedaの最終日の公式レポートが到着した。

会場のメインステージには大きな六角形をベースに、ツアータイトルの「KIZUNA」「絆」を刻み、ステージ下手側からはピンク、上手側からは白色の照明で照らし観客を迎えた。

開演3分前ごろから「祐也」コールに包まれる会場。定刻の19時を回ると客電が落ち、バンドメンバーに続いて手越が登場。シルエットでありながらオーディエンスの視線を釘付けにした。ブルーの照明がステージを照らしたかと思えば、一瞬の暗転を経て、眩しいほどの強い光が手越を照らした。

今回のライブツアーでは、2Daysそれぞれにセットリストを用意。それほど手越の音楽が増えたという証でもあるのだ。ツアーラスト、Day2の1曲目を飾ったのはミニアルバム『絆 -KIZUNA-』に収録の田邊駿一(BLUE ENCOUNT)が手がけた「everlasting」。オレンジ色の光につつまれながら、ノースリーブにロングジレ姿の手越が軽快なリズムにあわせて歌唱。オーディエンスを歓迎するかのように柔らかい歌声で会場を包んだ。

「ファイナルへようこそ!」と手越の呼びかけに観客からは拍手と歓声があがった。2曲目の「ARE U READY」ではビートに合わせてキレのある歌唱を響かせながら踊り、続く「Addict」では刺激的な世界観でオーディエンスを翻弄。

「Zepp Haneda!」と声を張り「どうもー手越祐也です!」と元気いっぱいに挨拶。「ついにやってきました、ファイナル。みんなちゃんと気合入ってんだろうね?」と投げかけると、手越に負けじと大きな歓声を返すオーディエンス。「今回のツアーの集大成だから、俺はもうこのステージ上で倒れてもいいと思うパフォーマンスをするつもり」と意欲を見せたのに続き、「絆のミニアルバム、すり減ることはないけど、すり減るぐらい聴いてきてくれてるのかい?」と笑いを交えながらファンとの交流を楽しむ一幕も。

会場から元気な声が聞こえてくると、手越は「メンズ、騒がしいぞ(笑)」とツッコミを入れつつも、「いいぞ、いいぞ!今日、日本で熱い会場はここでしょ?」と誇らしげに叫んだ。「絆ツアーはコール&レスポンスがいっぱいあったり、参加してもらったりみんなの参加がないといいライブにならないから。ってことは、みんなもライブを作る仲間だよ!いい?」と呼びかけると、手越のファンであるHONEYYY(読み:ハニー)たちも大きな声で応えていた。

リズミカルなクラップが響く「Hello‼」。そしてステージサイドからパープルの照明を浴びながら「LUV ME,LUV ME」へ。ディスコサウンドを彷彿とさせる音に合わせて、手越は指でサインを送るように歌い踊った。

スモーキーなブルーの灯に照らされ、ここで少しクールダウン。イスに軽く腰かけた手越が、全編英語詞の「HOTEL」を熱唱すると、オーディエンスも「Oh~」と声を重ねる。続く「Snow White」では、コロナ禍に観客の声の代わりとなったベルチャームの音が会場に響いた。一緒に歌ったりベルチャームを鳴らしたり。柔らかい光に包まれながら、まるでワインのマリアージュを楽しむかのように、会場全体が心を寄せ合って音楽を堪能した。

続いて、アコースティックギターの音色が響く「Snow White」から「この手とその手」、そして金井政人(BIGMAMA)が手がけた「face to face」へ。グリーンの細いレーザー光が会場をゆっくりと照らし、手越も一人ひとりと目を合わせるようにステージを歩きながら歌い上げた。

MCに入ると手越は「ここで俺のフリートークが炸裂するから座ってって言うんだけど…」と切り出し、YouTube配信用動画の撮影を行うと発表。前回のツアーファイナルで収録したYOASOBI「アイドル」をカバーした動画が大反響だったことに触れ、「HONEYYYと俺らの最強のライブを他の人にも観て欲しい」と手越。今回はCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」をカバー。収録した動画は「手越祐也チャンネル」にて近日公開予定。

改めて手越は「2月1日から始まった特別なツアーも、無事に全国のHONEYYYのおかげでファイナルを迎えることができました」と挨拶。「2月1日の初日から幕を開けて1カ月で、5カ所を回って10公演もある。しかもDay1、Day2の内容とセットリストが全部違ってね、

この新しい初めてのチャレンジのツアーだからより早く感じる」とこの1カ月を回顧。「2日間を通じて伝えたいことは」と切り出し、同日に発表されたばかりの大谷翔平選手の結婚報道に触れながら、明るいニュースで「ほっ」とするような世の中になればと語った。

その流れで手越からは「手越祐也 シンフォニックコンサート」第3弾の開催が決定したという明るいビッグニュースを発表。5月4日の東京オペラシティ コンサートホールを皮切りに、5月11日には京都コンサートホールなどでも開催予定だという。興奮冷めやらぬ様子のファンからは改めて大きな声援が寄せられた。

後半は「Lovin'U」からスタート。山田海斗・竹中雄大(Novelbright)が手がけた疾走感に溢れるロックな世界観の「Gluttony」。さらに激しさを増す「LOVE SENSATION」、「I'm coming」とディープな世界へオーディエンスを誘い、本編の最後の最後まで突き抜ける歌唱で魅了した。

今回のツアーでは2日間でセットリストを全て変えたのに加え、会場を照らす照明づかいも見どころのひとつ。楽曲の世界観や歌詞の情景・心情描写に合わせて細かくセッティングし、メインステージのみならず、2階席にも届けるようなダイナミックな演出も。カラフルでファッショナブルな光の演出で観客を魅了した。そしてなんといっても手越の歌唱力の凄みを感じるステージだった。繊細で優しいストレートな歌唱を聴かせたほか、シャウトにハイトーン、ロングトーンと迷いのない発声で、最後の最後まで衰え知らず。特に中盤から終盤にかけて、歌声を発すれば発するほどそれがエネルギーになるような、パワフルかつエネルギッシュな歌唱でオーディエンスの心を揺さぶった。

「絆ツアーファイナル、めちゃくちゃ幸せでした。ありがとう」と心を込めて挨拶をした手越。「全国を回って、全国のHONEYYYに会って、俺がソロになってからそばにいてくれる仲間だったり、色んな番組で出会ってきた仲間だったり、そういう人への思いをどういう風にこのツアーで表現したらいいのかなってすごくワクワクしながら考えて」とツアーに込めた思いを告白。

また、ソロアーティストになったばかりの当時を振り返り、「振り返ったら誰もいなくて、あぁこれが現実かって思った日もあったんですけど。でも信念を突き通して、周りの人を大切に一日一日を生きてればきっと伝わる日が来たり、ついてきてくれる仲間がいてくれるだろうって。最初はね、スーパーポジティブとかってSNSをやってたけど、全くそんなことなかったし、めちゃくちゃ落ち込んだこともあった」と明かした。1st Digital Single 「シナモン」を皮切りに、楽曲が増えていくこと、様々なアーティストと仕事ができることへの喜び、そしてファンへの感謝をたっぷりと語った。

本編が終わるとすぐさまファンからは「ダーリン」コールが響く会場。アンコールに応えてTシャツ姿で登場した手越は、眉村ちあきが手がけた「Lover」をはじめ、マイキによる「アダルトブルー」、井上竜馬(SHE'S)による「My Own Beat」と、固い“絆”で結ばれたアーティスト陣が手がけた楽曲を熱唱した。

手越は今回のツアーを振り返り、「改めて愛と絆を感じたツアーになりました」とファンをはじめバンドメンバーやスタッフへの感謝を語った。続けて「こんな最強な仲間が周りにいてくれたら俺は前だけを見て突き進んでいけるし、もっともっとみんなに幸せと笑顔と色んなものを伝えられるように、もっともっと大きくなれるようにがんばります。本当に幸せなツアーでした!どうもありがとう」と笑顔を見せた。

最後は手越の「せーの」の掛け声で、オーディエンスからの大きな「祐也」コールと共にツアーファイナルを締めくくった。

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メジャーデビュー1曲目のタイトルが「遺書」。そして2曲目が「已己巳己」(いこみき)。誰にも似ていない強烈なオリジナリティを持ち、誰にも身に覚えのある恋愛や人生の後悔と不安を、誰もが親しみやすいメロディと歌に乗せて届けるシンガーソングライター。澤田 空海理(さわだ・そうり)は2024年、最も聴かれるべき逸材の一人に間違いない。インディー時代から定評のあった独創的な言葉のセンスに、最近はアレンジの幅や深みが加わってポップスとしての完成度がぐっと高まった。語り出すと止まらない、アーティストとしての生き方論も非常に面白い。澤田 空海理に注目せよ。

――去年(2023年)の12月にメジャーデビュー曲「遺書」を出した時は、その後のプランはどの程度決まっていたんですか。

何もなかったです。レーベルの人の前で言うことじゃないですけど、僕はもう「遺書」を出せたらいいやと思っていたので、「遺書」を出して、あとはその時に書けるものを、という感触だったと思います。でもプランはないけど、動かなきゃいけないっていう状態はありがたいですね。前の僕なら絶対、「遺書」を出したら“もうこれでいいかな”って、1年ぐらいは休んでいたと思うので。

――「遺書」は、これで終わりというつもりで書いた曲ですか、それとも始まりの曲ですか。

終わりですね。そもそもインディーの曲として出すほうが美しいと思ってたし、たとえば去年の30歳の誕生日にインディーラストとしてドン!って出して、“もうこれで終わりでいいか”みたいなことは考えていたんですけど。結局「遺書」のパワーというか、楽曲としての力があったし、今となってはここがメジャーデビューで良かったし、メッセージもちゃんとあったなとは思います。

――「遺書」は、ファンからはどんな反響が届いてますか。エゴサとかします?

いや、SNSはそんなに好きではないので。自分のリスナーの方も、そんなに直接的に声を積極的に上げるタイプではないんですけど、でもメジャーデビューに関しては戸惑いの声も多かった気がします。珍しくDMがけっこう来て、その中にはメジャーデビューおめでとうっていうものもあれば、やっぱり複雑だという言葉も多くて、すごくわかるなって思いました。だけど「遺書」でわかってもらえなかったらもう厳しいなというか、他の曲で“澤田はメジャーに行ってこうなるんだ”ということになったとしても、「遺書」で言われるのは……でもそんな、否定的な言葉でもなかったんですけどね。あとはその人の中で、すぐには理解ができなくても、“彼の中でお祝いの門出の曲ではなかったんだ”っていうのがわかってくれたら嬉しいなと思います。

――「遺書」は《良い曲ってなんだろうか》という問いかけから始まって、一人の女性に向けた悲しいラブソングでもあるし、強いライフソングでもあるという、すごくスケールの大きい曲です。

そこはけっこう、イコールでしたね。「遺書」で書いた子については、たぶんライフでありラブであったなというのはすごい感じるので、あんまりそこを分ける意識もなかったです。ラブを書いたらライフになって、ライフを書いたらラブになっただけであって。

 

自分のやってることの醜さみたいなものを、「遺書」を超えたあたりで認められるようにはなったというか、ある種覚悟を決めたというか。

――この話は澤田 空海理ファンは共有してると思いますけど、空海理さんの恋愛の曲は、ほとんどが一人の相手に向けて書かれたものなんですよね。それはもう公言していて。

はい。

――もしまだ聴いていない人は、まず「遺書」を聴いて、インディー時代の曲にさかのぼってもらえればいいんじゃないかと思います。さぁ、そしてメジャー2作目の新曲が出ました。「已己巳己」(いこみき)という、とても珍しいタイトルですけど、この曲はどんなふうに生まれたものですか。

これは別の媒体でも話していて、おもしろネタになっているんですけど、最初に別の曲のデモがあって、チームの打ち合わせの時にそれの反応があんまり良くなくて(笑)。僕はけっこういい曲書けたと思ってたのに、みんなに聴かせたら、第一声が“澤田さん的に今回どう思いますか”で。“あ、これは良くなかったんだな”と(笑)。そのまま押し通すこともできたんですけど、幸い1週間ぐらい締め切りを伸ばしてもらえたので、じゃあ1曲書きますって言ってできたのが「已己巳己」なので。「已己巳己」に関しては、無味無臭な感じがあるというか。

――めちゃくちゃいい曲だと思いますけどね。歌詞の進行につれてどんどん変わって行くアレンジも、素晴らしいなと思って聴いてました。

編曲に関しては、“編曲は筋トレだ”って昔からずっと言ってるんですけど、感性の話ではなくて、自分がどれだけ編曲に携わってきたかでうまさがわかるものなので。サウンド感については、作ってる時に頭の中に「已己巳己」ワールドがあるわけではなくて、むしろ経験則に基づいた、“ここならこう詰めるよな。ここでバイオリンがこう動いたら気持ちいいよな”みたいな感じではあるので。

――はい。なるほど。

もちろん制作は苦しかった部分も多いですけど、「已己巳己」に関してはわりかし安産でしたね。ドラムだけ白川(玄大)さんという方のご自宅で録っていただいて、制作はほぼDTMだったということもあって、隠しエピソードみたいなこともあんまりないんですけど。ただ、ここ(新曲のリリース資料)に書いてあるパンチラインみたいな歌詞だけは、心の芯から出てる言葉だなとは思います。

――《出会いさえしなければ、化け物にならずに済んだのに。》これですか。

はい。それはこの曲だけじゃなくて、本当に僕が最近ずっと思っていることなので。特定の人だったり、あるいは音楽そのものでもあると思うんですけど、“これに触れなかったら…”と思うことがすごく多くて、“これに触れなかったら、僕ってもうちょい幸せに生きてるよな”とか。八つ当たりですけどね(笑)。それはある種、いい意味でも捉えてるんですけど、自分のやってることの醜さみたいなものを、「遺書」を超えたあたりで認められるようにはなったというか、ある種覚悟を決めたというか。

――醜さ、ですか。

これより先に行く時にまだうじうじと、“でも僕は人を消費していて…”みたいなことを言ってるのも、もう嫌だなと思っていて。だったら正面切って、消費もするし、それでお金を稼ぐし、それを自らやりに行く必要はないけど、起こってしまったことに対してもう一回振り返ることをしなくていいと思ったので。その反面、友達に“こういうことをやってると、お前、刺されても文句言えないよ”って言われたことがあるんですけど、それも間違いないなと思っていて。

――その、繰り返し曲の中に登場する、女性のことですね。

僕が曲にされた側で、もし精神状態が悪かったら、怒ってもおかしくないなと思うけど、そうならないってわかっていてやってる節もあって。そういう意味で、自分がどんどん化け物になって行く感覚があって、人として大事なものを失っていってるなっていう感覚はすごいあります。

――何度も繰り返し同じテーマを書き連ねながら、そういう葛藤がずっとあったと。

ありました。友達も、やめた方がいいっていう人と、やるならやり切れよという人がいて、その是非はその人たちのものでもなくて、僕が決めるものでもなくて、たぶん題材にされた本人のみが確実に答えを持ってて。誰も答えを持ってないから、やるしかないっていうことですね。

――恋愛の歌は怖いですね。特に実話をテーマにする場合。

そうですね。作り方を誤ると。

――ある意味、相手の心と自分の心をどこまでえぐれるかという勝負じゃないですか。本当に強い曲を作るために。

その発生装置として人を使ってるというふうに、たぶん外からは見えるだろうし。だから、仮に刺されたとして、たぶん痛い痛いって叫びますけど、恨みはしないです。しょうがないよなって思うだろうなと思います。

 

なるべく多くの人は創作に触れた方がいい。ノートにポエムを書くだけでも、そうすればお互い今より更に豊かになれるんじゃないか?と思ってます。

――覚悟決めてますね。ちょっと話はズレますけど、澤田さんって作家的な思考回路ってありますか。小説とか脚本とか、そういうものを作り上げていく感覚というか。

あります。でもそれはたぶんあとから作られたもので、元々が野球部で、文学とは真逆のところにいたんですけど、本を好きになって。最初にボーカロイドのシーンにいたんですけど、そこで曲を書いてた時に、ニコニコ動画のコメントでもけっこう書かれていたんですよね。歌詞がきれいとか文字がきれいとか、そういうことを書かれるから、“これって僕の強みなんじゃないか?”って、それできれいな言葉を書くようになったなと思うし。ただそれが本当に自分の生来のものか?って言われたら、ちょっと疑問は残りますけど。

――影響を受けた物書きの人って、具体的にいたりします?

江國香織さんが一番好きなんですけど、ちっちゃい頃から読んでるわけではなくて、澤田 空海理名義になるちょっと前ぐらいからです。あと、市川拓司さんかな、よく読んでたのは。その二人の影響は、如実に表れてる気がします。市川さんが好きだった時はそういう文体になっていたし、江國さんは文体というよりは人間の書き方がすごいフィットして、そこからの影響もありましたね。あとは誰だろう、川上弘美さんとか、吉本ばななさんとかですかね。ただ僕は、エンタメとしては漫画のほうが好きなんですね。文章の方がインスピレーションは受けますけど、普段自分が好んで読むのは漫画が多いです。

――漫画だと、誰が好きですか。

まずは『ハチミツとクローバー』。羽海野チカさん、大好きです。あと野球漫画も好きですけど、それは一旦置いといて(笑)。最近本当にすごいなって思ったのは、2年くらい前に平庫ワカさんの『マイ・ブロークン・マリコ』っていう漫画があって、けっこう衝撃だったのと、つい最近だと『蝉は胎児に寄生する』っていう漫画があって、めちゃくちゃホラーで救いようが一個もないんですけど、使われる言葉の一個一個が作者の思想に基づいてるし、すごい自分のフィーリングに合ったんですよ。僕、好きなセリフを全部スマホにメモしてるんですけど、その漫画は3ページに1ページくらいは“この言葉すごい”ってメモを取ってる感じで。

――それが創作のヒントにもなっていく。

そうですね、ヒントのヒントというか。あと、単純に単語のメモとして使ってます。語彙ってハッタリが効くじゃないですか。しゃべると駄目なんですけど。

――澤田さんの歌詞は本当に独特で、たとえば「与太話」という曲で《臍(ほぞ)を噛む》という表現が出て来た時におっ!と思ったのを覚えてます。普通は歌詞で使わないぞ、そんな単語はって。いちいち引っかかるんですよね、空海理さんの言葉選びに。

嬉しいです。そこは意識してると思います。日本語って、漢字とひらがなの使い分けもあるし、字面もあるし、たとえば《臍を噛む》だったら、後悔してるとか、そういう言葉でもいいんですよ。意味としては。ただ臍という字面を見た時に、その人が想起するグロテスクさみたいなものがあると思うんですね。それで“これってどういう意味?”って、気になった人は調べると思うんですよ。調べなかった人には、字面だけで何かおぞましいことがあるぞっていう怖さを与えて、調べた人にはそこからもう一個先に行ってもらって“なるほど。意外と女々しい意味がこもってるんだな”って思ってもらったりとか、そういう二段階の伝え方ができるのが面白いなと思っていて。

――深いです。なるほど。

僕は、僕の曲を聴いてる人に“自分で歌詞を書け”と言ってるんですよ。ちょっと嫌な思想ですけど、なるべく多くの人は創作に触れた方がいい派閥なので。作詞って、たぶん一番敷居が低いと思うんですよね。言葉は誰もが普段使うものですし。それでも自分の歌詞っていうのが出来上がった瞬間に、その人の中の壁は何個も崩れるはずで、ハマってく人は一瞬でハマってくと思うんですよ。という意味で、僕は創作をやっていてもちろん苦しいこともあったし、ほかにもっと幸せはあったなと思うんですけど、その上で(作詞を)やってなかった自分がどれぐらい浅慮な人間になっていたかっていうのを考えると、すごく怖いです。だから創作がすべてと言い切る気はないですけど、もしその人が消費だけをしている立場でも、本来は消費じゃなくて創作側に行くべき人もいたかもしれないっていう、その可能性はあると思うんですね。

――わかります。

才能なんて関係ないと思うんです。メロディの才能は存在すると思いますけど、言葉の才能は積み上げだと思うし、こういう言い方は傲慢ですけど、少なくとも僕の歌詞を見て、調べて、“こういう意味か”と知って、その内部に触れようとした人間が、言葉の機微がわからないとは思わないので。少しでも多くみんなが制作をしてほしいし、ノートにポエムを書くだけでもいいんですけど、そうすれば、一緒ではないですけど、お互い今より更に豊かになれるんじゃないか?と思ってます。

たとえば今、創作人生が終わっても“まだ書きたいことがあったのに”とは絶対思わないと思います。この先は、音楽家としての成長を見ていてほしい。

――素晴らしい思想だと思います。話を戻して、「已己巳己」に関しては、最初に書いた一行はどこだったんですか。核心になるのは。

さっき話した《化け物》のところですね。その前も含めた4行かな。よくある“言った言わない論”みたいなことを考えていて。あとは“言うことが誠実か、思ったことを口にしないのが誠実か”とか、どっちもあるじゃないですか。それって結局個人差でしかないし、その時と場合によってちゃんと選べよって話なんですけど、この2行もその延長線上だと思ってて。

――《心なんて在りもしないものを、無垢に信じる心は在るのに。》。

要は、心というすごくぼやっとしたものの話をする時に、ぼやっとしたもののことについて話すことこそが、心の存在の証左であるというか。そもそもそれって生活の本質にはなくていいもの、不必要なものではあると思うので、“心は在るかないか”と議論されている時点で、そこに心が存在するみたいな話だなと思っていて。

――ですね。

でもそういう議論を続けて、深みにハマっていくと、化け物になるよね、みたいな話ではあって。ある種、突き放しでありたいというか。

――結論の出るものではないですからね。

必要以上に繊細であることに対して、僕は……今はそうでもないですけど、昔は少し敬遠していたんですよ。そういうことを言う人に対して、“自分だけが痛いと思うなよ”って。自分を悲しいと見せる才能だってあるし、そういうのがうまいか否かという技術もあるし、だから必要以上に繊細であることを誇るなよ、みたいなことはずっと思ってるんですけども。「已己巳己」という曲はその考え方にけっこう繋がっていて、見えるもの/見えないものの違い一つで捉え方も全部変わってしまうけど、見えるものしかとりあえずは信じることはできないというか、それだけしか判断材料がないじゃないですか。

――ですね。

だから僕らはそれを口に出す必要があるし、でもその逆もあって、最後のほうに《言わない聡さを、宿る優しさを》と言ってますけど、ずっと矛盾しながら、最終的にどこにたどり着くんだろう?みたいなことを思ってるんですけど。

――それは永遠にわからない気もしますけどね。矛盾は矛盾のまま。

答えは出ないんでしょうね。たぶん僕も一生そうやっていくと思います。そして“人ってなんだ?”みたいなことを書き続けるんだと思います。

――そもそも「已己巳己」という言葉って、同じようなもの、という意味でしたっけ。

似ている漢字が四つですね。心の話をしようと思った時に、ある程度共通認識があると思っていて、みなさんの中で“心”って聞くと、なんかぼやっとした丸いものや、心臓の形とかが浮かぶはずで、ある程度心っていう共通認識を持ってるけど、それは共通認識でしかなくて。一個一個は全部サイズが違って、むしろ“心”っていうでっかい箱にまとめちゃうことによって余計わかんなくなっちゃってる、みたいなことがあると思っていて。ちょっと皮肉った意味もあっての言葉選びだったと思います。

――それにしても、「已己巳己」という曲って、史上初じゃないですか。日本のポップスのタイトルとして。

いや、前に調べたら、あった気がします(笑)。ちょうど昨日も友達から、“俺もいつか「已己巳己」っていう曲を出そうと思ってたのに”って言われて、こういう言葉はみんなストックしてるんだなと思ったりして。だから、僕がまだ使ってないけど僕が使いたかったタイトルをその友達に公開しました。「已己巳己」を先に使っちゃったから代わりにこれをって(笑)。

――いい話(笑)。話のまとめとして、ともかくメジャーデビューの「遺書」と2曲目「已己巳己」で、澤田 空海理の自己紹介はできたと思いますか。

最初にまず、あなたたちが追っていい人物かどうかを判断してくださいっていう曲は出せていると思います。本当は2曲目がもうちょっと明るい曲になる予定だったんですけど、流れちゃったんで(笑)。それは僕の判断であり、チームのみなさんの判断なんで、間違ってないなと思います。

――自分の曲をどういうふうに届けたいとか、思うことはありますか。

すごい独りよがりだと思いますよ。僕が書きたいことを書けていればいいし、言い方がアレですけど、誰かを救おうとはあんまり考えてないし、僕が救われる過程で、同調して勝手に救われる人が出てくるだけで。だから僕の歩いていく道の途中にいる人を、なるべく……手を差し伸べるわけでもなくて、ただ僕が“悲しいよ”って、一本道をずっと泣きながら歩いてたら、後ろから泣いてる集団がついてくるみたいな感じ。

――絵が浮かびますね。なるほど。

向こうも、“なんか同じように悲しい人を見つけたからついていこう”ぐらいの感じじゃないですか。アヒルの子じゃないですけど。

――例えが(笑)。でもわかる気がします。そこを意識して、何かしてあげようとか思い出したら、本末転倒じゃないですか。救いを求める人を探しだしたり。

そうなると、不健康ですよね。

――応援歌ばかり作る人になっちゃう。

あはは。でも最後はそうなりたいですよ、最後の最後は。最終的にはそうならないといけないなって思います。今はこういう曲を歌ってますけど、こうやってメジャーレーベルに入ってやってる以上、目指すところは大きいところだと思っていて……そういう時に、応援歌を書きたいわけではないですけど、J-POPって一個の大きい文化じゃないですか。僕は学生時代に部活をずっとやっていて、そういう曲を通ってきたんですよね。GReeeeNとか、FUNKY MONKEY BABYSとか。ずっと野球部で、100点の野球人生を送ってきたので、ああいう曲に背中を押されたことも事実なので、最終的にそこに行けたらいいよねと思っています。まあ、今やってることとはあまりに乖離しすぎてますけど。

――いや、でもこの先に澤田 空海理がそういうふうに進化を遂げたら、めっちゃ感動しますよ。すごい音楽人生だなって。

正直、甲子園のテーマソングは絶対やりたいと思っているんで、そこだけは絶対落とせないです。他の何を捨ててでも。2013年か14年の甲子園で、秦基博さんが「Halation」という曲を書いてて、あれにはけっこう衝撃を受けました。たぶん『熱闘甲子園』で流れてたんですけど。

――応援歌っぽくはないですよね、あの曲。

“こういうの、ありなんだ”と思って、僕がもしもいつか『熱闘甲子園』のテーマ曲をやるとしたら、絶対ああいう曲調でやりたいと思ってます。すみません、脱線が(笑)。

――いやいや、むしろ本質の話をしていると思いますよ。最後にライブの話をしましょう。4月5日、渋谷のPLEASURE PLEASUREでのツーマンライブ、タイトルが『手 vol.1』。ボリュームワンということは、今後も続いてゆくイベントということですか。

そうですね。“手”というのは、握り込むほうの手ではなくて、僕がずっと好きだった人に手を伸ばして“踊ってくれませんか?”と言って、かしずくという意味の手です。せっかくこうやってメジャーでやらせてもらって、お声もかけやすい状態になっているところで、“この機会を使って自分とやってくれませんか?”ということですね。

――そして第一回目のゲストが古川本舗。

古川さんには本当にいろんな影響を受けていて、特にマインドですね。僕が好きだった中だと、たぶん彼が一番表立って、ボーカロイドから人への変異を遂げようとしていた人なので。どう考えても早かったし、僕はそれを見てやった部分も大きいので。今はお互い人間として一対一になったことだし、一緒にやってくれませんか?ということです。

――楽しみです、今後の展開が。

はい。『vol.2』も早めにできたらいいなと思ってます。

――ありがとうございます。今日はお話できて良かったです。ほんの数十分ですけど、澤田さんのことが少しわかった気がします。完全な文科系だと思ってたんですけど、野球少年だったし、“編曲は筋トレ”というのも名言だし、どっちの感性もあるのがすごい特長だなと思ったりしました。

僕はそこを強みにしたいというか、逆にどちらかの感性一本で生きてきた人には絶対勝てないなって思うので。僕は音楽文化がすごく好きなタイプの人間ではなかったので、“この曲にはどのルーツが、どの文化が詰まっていて、何十年代の何だ”みたいなことは絶対できなくて。そういう人たちと渡り合っていくためにも、せめてやれることの練度を上げておくというか。

――よくわかります。

戦いじゃないですけどね。もうちょっとみんなと手を取り合えたらとは思いますけど、どうしてもそうなってしまうので。だから相反する言葉ではあるんですけど、1日でも長く音楽というフィールドにいられるようにっていう思いもあるし、1日でも早く、稼ぎ切って辞めたいなという気持ちもあるし。

――あはは。勝ち逃げしたい。

勝ち逃げしたいどころか、負け逃げでもいいんですけど(笑)。YouTubeで自分の作ったフリー素材が使われてたくさんお金が入るとか、あるじゃないですか。そうなったら、これ以上身を削ってやる必要はないよなって、すべてをシャットダウンする可能性もなきにしもあらず(笑)。

――それは困りますねぇ。

ただ、たとえば今、創作人生が終わっても、“まだ書きたいことがあったのに”とは絶対思わないと思います。書きたいものは「遺書」で書ききったので、この先は本当に、“音楽家としての成長を見ていてほしい”ということですね。でも、何か偶発的なお金が入ったらごめんね、と(笑)。

――澤田 空海理に長く続けてもらうためには、大きくバズらせてはいけない(笑)。

でも、自分の曲でバズったんだったら、ちゃんとそれなりの責任はあると思うので、頑張りますよ。たとえば、まぁそんなことはないと思うんですけど、作家業として作った曲が面白ミームとかに使われて、変なバズり方してお金が入るみたいなことだったら、それはありがたく受け取って辞めるかもしれないですけど、自分の曲だったらさすがに責任を取ろうと思います。

――良かった。こんな締めくくり方で大丈夫ですかね。でもめちゃくちゃ面白かったです。

やっぱり、音楽は楽しいですからね。そういう意味で、いつ辞めても後悔はないということです。まあでも、たぶん続けてますよ。

取材・文=宮本英夫

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2024年2月29日(木)東京・新宿シアタートップスにて、OFFICE SHIKA×新宿シアタートップス『9階団地のスーパースター』が開幕し、舞台写真が公開された。

第55回岸⽥國⼠戯曲賞 最終候補にノミネートされた『スーパースター』を14年越しにセルフリメイクした『9階団地のスーパースター』。キャストを一新して作られた今作は、丸尾丸一郎自身が脚本を2024年版にアップデートし、新解釈を加えた新たなシーンも満載で、演出も自ら手掛けた。丸尾節全開のビビッドでポップな笑いに包まれた、なのにひりひりとセンチメンタルに心を揺さぶる作品になっている。

      写真:和田咲子

      写真:和田咲子

物語の舞台となる「立花団地 10号棟の303号室」に集約したストイックな舞台美術、伊真吾の音楽、浅野康之の振付は、作品の骨子となる家族の物語、そして歌やダンスといったエンターテインメント要素を残しつつ、演出は「小劇場」という濃縮された空間を十二分に生かしている。

主人公の星川輝一(ぴかいち)を演じる山﨑晶吾は、芝居にライブハウスばりの歌、ダンスとそのポテンシャルを遺憾無く発揮し、物語と観客を引っ張って2時間を駆け抜ける。また、輝一の弟・瞬一を演じるのは、3年ぶりの舞台出演となる佐野岳。スター性と身体性を兼ね備え、輝一の対となるような「星を持っている存在」を唯一無二の存在感で演じる。輝一の少年時代を演じる小越春花(NGT48)の男役とキュートな関西弁と数々のライブパフォーマンスも見どころ。また、同級生のノロイを演じる相楽伊織の破壊力あるキャラクターをはじめ、キャストたちが縦横無尽に早替えで演じ分ける荒唐無稽で哀愁ただようキャラの数々に、気づけば2時間笑顔と涙で忙しい作品になっている。

ここでしか見られないキャストの一面がふんだんに盛り込まれた、コテコテに濃い、大阪純文学演劇を見逃さないでおこう。

      写真:和田咲子

      写真:和田咲子

さらに、今作の配信公演(3月9日・10日に実施)、そしてDVD&Blu-ray化も決定した。『9階団地のスーパースター』の熱量と圧倒的存在感を、劇場で、配信で、体感しよう。

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第68回岸田國士戯曲賞(株式会社白水社主催・公益財団法人一ツ橋綜合財団後援)の選考会が2024年3月1日(金)、東京神田錦町・學士會館で行なわれ、選考の結果、池田亮『ハートランド』が受賞作と決まった。今回の選考委員は、市原佐都子、上田誠、岡田利規、タニノクロウ、野田秀樹、本谷有希子、矢内原美邦(五十音順、敬称略)だった。

池田 亮は、1992年8月31日生まれ、埼玉県春日部市出身。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。現在、ゆうめいを主宰(劇作家、演出家、俳優、造形作家)。他の主な作品に「弟兄」「姿」「娘」「養生」(ゆうめい)「テラヤマキャバレー」等がある。

今回の『ハートランド』は、2023年4月20日~4月30日、東京芸術劇場 シアターイーストで初演がおこなわれた。

『ハートランド』池田亮について、選考委員のコメントは次のとおり。

社会の「弱者」とされる人々が、仮想世界とテクノロジーによって新たな居場所を与えられ、生かされる。リアル世界に固執した人々が、昔ながらの苦しみの中に取り残される。現代社会において実際に起こっている現実を描き出している本作が、軽妙なくせに、最も強度と緊迫感を持っている戯曲だと感じた。 (本谷有希子)

『ハートランド』舞台写真(過去SPICE記事より)  (撮影:佐々木啓太)

『ハートランド』舞台写真(過去SPICE記事より) (撮影:佐々木啓太)

今回の第68回岸田國士戯曲賞最終候補作品は次のとおりだった(作者五十音順、敬称略)。
安藤奎『地上の骨』(上演台本)
池田亮『ハートランド』(上演台本)
金子鈴幸『愛について語るときは静かにしてくれ』(上演台本)
菅原直樹『レクリエーション葬』(上演台本)
蓮見翔『また点滅に戻るだけ』(上演台本)
升味加耀『くらいところからくるばけものはあかるくてみえない』(上演台本)
メグ忍者『ニッポン・イデオロギー』(上演台本)
山田佳奈『剥愛』(上演台本)

なお、正賞は時計、副賞は60万円で、授賞式は5月7日(火)午後6時より東京神田錦町・學士會館にて行なわれる。

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